day002_きっと分かりにくい関係

みつるとシンイチロウ──みつるは『シンさん』と呼んでいる──の出会いは高校時代にまで遡る。

当時はろくに話すこともなかったただのクラスメイトだった二人が今、居を同じくしていることを知ると周囲の人々は爛々と目を輝かせて異口同音に問う。二人は恋人になったのか、と。

それに対する二人の回答はいつでも誰に対しても同じだ。
「私にシンさんは勿体ないよ」
「でも、二人で住んでるんですよね?」
「いろいろあった結果、今があるだけだよ」

その日もみつるは職場の後輩にシンイチロウとの関係性を問われていた。午前の仕事が少し押して、みつると後輩は遅めの昼休憩を取っているところだった。ピークを過ぎた休憩室は人も疎らになっていて、恐らくみつるたちと同じように重めの仕事をこなして若干くたびれていたり、まだ戦いの最中という様子の人が点在しているくらい。そんな状況だからこそ、彼女の後輩も少しだけプライベートな話題を切り出すことができたのだろう。
「同窓会がきっかけなんでしたっけ。それだけ聞くと、結婚間近の二人って感じなんですけどね……」
「まあ、大事にしているっていうところは同じだから」

みつるとしては事実をそのまま伝えているのだからこれ以上説明出来ることはないのだが、理解されにくい二人であることも分かっている彼女は決して腹を立てたりはせず、ただ凪いで後輩の言葉に耳を傾け続けている。
「んん……難しいです……!」
「世の中、いろんな関係性があるってこと。ほら、お昼休み終わっちゃうよ。戻ろう」
「はぁい」

頭を抱えた後輩の肩を軽く叩いて、みつるは休憩室を出ていく。自分の机がある事務室に向かう道すがら、携帯電話を確認するとメッセージが届いていることを示すランプが点滅していた。画面を開くと、絵文字や顔文字もついていないシンプルな文字列が並ぶ。 『お疲れ様です。美味しいプリンが冷蔵庫に入っています。食べてもいいよ』  あっさりとした要件だけの言葉は実にシンイチロウらしく、みつるは思わず目尻が下がったことを自覚した。恐らくもう午後の仕事に向かっているだろう同居人を思いながら、みつるも短く返事を送り出す。 『ありがとう、午後も頑張れます』  送信を確認したみつるは、画面を暗くした携帯電話をジャケットのポケットに仕舞い込み、緩みかけていた頬を引き締めた。

二人は恋人や、他の名前がついた関係性を持たない。しかし、互いの日常の中で些細なことを分け合っている今を確かに愛しんでいた。

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