day005_あたらしい家族
ピンポン、と普段滅多に鳴らないチャイムの音がシンイチロウの部屋にも届いた。意外と間の抜けた音だな、と仕事の資料を片手に持ったまま部屋を抜け出して廊下を歩き、西日が射すリビングに向かう。扉を開けてすぐにある来客者を確認出来るモニターを覗くと、チャイムを鳴らしたのは彼の同居人、みつるだった。
鍵を忘れたのかと思いつつも、ひとまず通話より先に解錠ボタンを押してオートロックシステムを解除する。申し訳なさそうにカメラに一礼していったみつるは、両手に何か荷物を両手で抱えているようで、映像が途切れる瞬間、大きな影がみつると一緒にエレベーターへ吸い込まれていった。
シンイチロウは同居人の足音が聞こえるより先に、適当なサンダルを引っ掛けてエレベーターホールへと小走りで迎えに行く。特に何も聞かされていなかった荷物にシンイチロウがそわそわと待っていると、ほどなくしてみつるの乗ったエレベーターが到着する。
「おかえり、みつるさ……ん……?」
扉の先、そこにはみつるの代わりに大層立派な観葉植物が生い茂っていた。
「商店街のくじ引きで当たっちゃった……しかも、二等だったの」
「ああ、秋祭に合わせてやってるんだったっけ。当たるもんなんだな……」
ひとまず邪魔にならないように部屋に運び込まれた観葉植物は平均的な成人の体格を持つみつると同じくらいの大きさで、比較的長身なシンイチロウから見てもかなり立派なものだった。二人で住んでいるにしてはモノの少ないリビングの窓際に仮置きしてみれば、少し弱くなってきた西日に照らされて何となく居心地が良さそうに見えてくる。
「……案外収まりがいいな」
「そうだね。もっと困っちゃうかと思ったんだけど」
帰ってきてからずっと困り顔を浮かべていたみつるがやっと安心したようにはにかむのを見て、シンイチロウも口の端だけで微笑みながらしゃがみ込み、二等賞の名に相応しい立派な鉢の縁をなぞる。
「みつるさん、この人のお名前は?」
いっぱいに茂った葉を撫でていたみつるを見上げるシンイチロウの瞳は、二人の部屋を彩る緑への親しみをすでに含んでいる。普段こそ人一倍の人見知りで警戒心が強いシンイチロウが見せる隙間をみつるは好ましく思っていた。
「えっとね……そう、オリーブさんです」
「オリーブさん、我が家へようこそ」
霧吹き持ってくる、と一言言い残してシンイチロウはキッチンへ消えていく。みつるは自らも新しい家族の鉢をひと撫でして、にこにこと笑みの絶えないシンイチロウの後を追った。