day023_式の朝
まるでクリスマスツリーのようだ。入れ代わり立ち代わり現れる人たちの手で飾り付けられ、突っ立っているだけだったというのに随分と疲れた。この後からの本番は長丁場になるらしい、今のうちに休んでおこうと真っ白に飾り付けられて重たい体を慎重に動かして窓辺のベンチに腰掛ける。
すると、その時を待っていたかのようにノックもなく扉が開いた。準備に漏れでもあったのかと扉を見遣ると、大きな箱を抱えた男が無遠慮に押し入ってくるところだった。
こちらが何も言わないのを良いことにずかずかと近づいてきたその人は、脇に抱えていた白い箱を差し出す。この世で一番価値のあるものだと胸を張るように真紅のリボンがかけられたそれは、誕生日でも記念日でもない、ただの何でもない日に渡されるものとしては滑稽なほど仰々しい。
「これを」
何も言わず、最早視線すら寄越すのを止めた私にその人はなおその箱を手に取るように無理強いする。遠慮がないのにも程がある、こういう人だから嫌なのだ。
「これを」
忍耐にも限界が来たのだろう、繰り言を吐きながらその人は仰々しい箱を私の膝に無理矢理乗せてしまった。それきり何も言わず、ただ突っ立ってこちらを見下ろしている。また黙りだ。決して沈黙が不得手でない私でさえ、から風のような視線にさらされ続けていられるほどの神経は持ち合わせていない。
「まだ何か」
この人が部屋を訪れて初めて発した言葉。幾重もの意味はきっとこの人に届くことはないだろう。諦めは声に乗った、それでも。ひととき瞑目したその人に何か響いたものがあるのならば、今すぐここから姿を消してほしかった。
「あなたの幸せを、願っております」
再び目を開いたその人は一つひとつ言葉を並べ置き、そして部屋を辞していった。私の望み通り、誰に気付かれることなく静かに。
残されたのは白い箱と、見たことのない表情の記憶。
誰かが来る前に箱はどうにかしないといけない、と一瞬の出来事に呆然としたままリボンを解いて中を改める。箱の中身は、リボンと同じ真紅の──私が一等好きな色のドレスだった。一面の赤の他には、カードも手紙も入ってはいない。仏頂面で言葉足らずで、でも手先ばかり器用なあの人のようだ。
「……もう遅い」
箱はもう一度、少し時間をかけて封をして、私物の底に埋めた。