day033_晩秋の誘惑
ついこの間まで夏の盛りのような暑さがまとわりついていたというのに、急に晩秋のような冷え込みが肌を刺してくる。小腹が空いたから、と特に上着を羽織ることなくのんびり気楽に歩いてコンビニに行ける寒さではなかったと後悔してももう遅い。諦めて心持ち足早に夜道を歩く最中も、ぴゅうと吹きつける風が鼻先や指先から容赦なく体温を奪っていく。あと少し、もう少し。いつもはなんでもない道程も今ばかりは万里ほどに思えた。
どれだけゆっくり歩いてもたった十数分の道だ。実際に万里の距離になるはずもなく、住宅街を抜ければすぐに煌々と明かりを灯したコンビニが私を出迎えてくれた。店内に入ると暖房がついているのか、冷えきった頬を空気の流れが撫でていく。いつ来ても賑やかな音楽が流れている店内は深夜らしい少し落ち着いたラジオのような音が流れていて、何度も来ているのに初めて訪れる旅先のコンビニのように思えた。
なんだか少し得したようなわくわく感をパーカーのポケットに捩じ込んできた財布と一緒に握って、適当なスナック菓子を見繕う。そういえば、昨今のコンビニスイーツの進化たるや目をみはるものがある。やれどこかの有名パティシエとコラボした、どれ何かの賞を何年連続で受賞したとこちらを文字通り甘い言葉で誘惑するのだ。そのどれもが前評判通りのクオリティを誇り、基本的には最高記録を更新し続けるのだから恐ろしい。稀に当たるハズレも見るからに際物と分かるものくらいで涙ぐましい企業努力が美味しさと価格、そして洗練されたパッケージから窺える。認めよう。コンビニに来てスイーツコーナーを決して素通り出来ない意志の弱さを。
カゴに予定外の新作スイーツ──和栗のとろふわクリームプリン──を入れ、レジへ向かうと作業をしていた店員さんがすぐに手を止めてくれた。カゴをレジに置きつつ、会計をお願いしようと私は家から一度もきいていなかった口を開く。
「あ、肉まん一つください」