day035_最高の休日

「諸君、パフェを食べよう」
「……いえーい……?」

長い付き合いと言って差し支えなくなったシンイチロウでも、みつるの行動力、思いつきで動けるフットワークの軽さには未だに驚かされる。ついさっきまで積んでいたゲームに白熱していたと思ったら、今度はパフェだ。ゲームの中で美味しそうなものでも見たのかな、とシンイチロウは仕事道具が散らかったままの机を立って仁王立ちしているみつるの元へ歩み寄った。
「何処に食べにいくの?」
「ここで食べます」
「……テイクアウトするってこと?」
「いいえ、ここで生産して消費します」

流石に予想外だった答えに瞬きの数が増えるシンイチロウに向けて、決意に溢れる表情でみつるはエコバックを掲げて見せた。つまり、今から材料を買い集め、おうちカフェと洒落込むということだ。無言のままのシンイチロウは徐ろに部屋の床に置きっぱなしにしていたカーディガンに袖を通しながら、ぽつり呟いた。
「……いちごも入れよう」

ガシャガシャと軽い金属がふれあう忙しない音、シンクを流れていく水音。その合間をゆったりとしたリズムの音楽が縫っていく。
「みつるさん、もう良い?」
「もうちょっと頑張って」

ボウルに入った生クリームを必死にかき混ぜるシンイチロウはしきりに救いを求めるが、みつるの無慈悲な「まだ」にゴールを阻まれ続けている。彼の腕は日頃の運動不足が祟って限界を迎える寸前だが、みつるは何処吹く風でフルーツを切り続けている。スポンジ生地が焼き上がるまでに二人分のフルーツを切り分け終わっている必要があるが、盛りつけるグラスの大きさを思えばまだまだ足りない。
「パフェって、こんなに大変なんだな……」
「でもきっと頑張った分、美味しいよ」

のんびりとした音楽に合わせて鼻歌を歌いながら、みつるはひたすらフルーツを切り続ける。シンイチロウはみつるの「これ」と決めた時の推進力にいつもながら驚きといつも通りの安心感を覚えて、限界が近い腕にすべての力を込めた。
「みつるさん、もう良い?」
「ん、いいよ。フルーツも出来たし、スポンジも上々。盛りつけは私でやっちゃって良い?」
「ありがとう、正直もう腕が上がらない……」

腕をだるだると振り子のようにするシンイチロウの様子にからからと笑って、みつるは今日のメインイベントに手際良く取り掛かっていった。盛りつけがしたくてパフェを作った、なんて言えばシンイチロウはどんな顔をするだろう。みつるは満たされていく欲と新しい好奇心を感じながら、丁寧に準備していた素材を揃いのグラスに盛りつけていく。土台にはシリアルを敷いて、バニラアイスをひと掬いした上からシンイチロウが頑張って立てたホイップクリームを盛り、スポンジとフルーツを入れたらまたアイスとホイップクリームを入れる。そうやって繰り返し盛りつけられたフルーツとクリームはやがて白い山となり、最後にウェハースを刺していちごを乗せれば完成だ。

満ち足りた気持ちのまま、シンイチロウが待つリビングへパフェを持っていくと紅茶の良い香りがみつるを迎える。
「俺のとっておき、淹れちゃった」
「ありがとう、最高ね」

みつるに配膳されたパフェを前に、シンイチロウは無言でスマートフォンのシャッターを切る。連続でカシャカシャ聞こえるシャッター音はさっきまで彼が一生懸命クリームを混ぜていた時の音よりも軽かったが、今日一番の気持ちが乗っているようにみつるには感じられた。
「じゃあ、いただきましょう」

手を合わせた二人は徐ろにクリームを掬い取り、一口。あっさり控えめのクリームと下に仕込んだいちごとキウイの酸味、マンゴーの甘味が混ざり合って程良い甘さに仕上がっていた。
「……頑張ってよかった」
「世界一の休日になっちゃったね」

 

パフェと紅茶とを行き来しつつ、二人は次に作るならどうしようかとアイディアを語り合う。陽射しがやがて傾いても、アイスが少し溶け出しても二人の最高の休日はまだ終わらない。

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